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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)2088号 判決 1977年10月27日

第一審原告(第二〇四〇号事件控訴人、第二〇八八号事件被控訴人) 山木幸雄

第一審原告(第二〇四〇号事件控訴人) 山木儀一

右両名訴訟代理人弁護士 真砂泰三

同 山之内幸夫

同 後藤玲子

第一審被告(第二〇四〇号事件被控訴人、第二〇八八号事件控訴人) 鈴木栄子

第一審被告(第二〇四〇号事件被控訴人) 鈴木嘉幸

右両名訴訟代理人弁護士 谷口道治

同 三宅玲子

主文

一、原判決中第一審原告山木幸雄の第一審被告らに対する関係部分を次のとおり変更する。

1、第一審被告らは、各自第一審原告山木幸雄に対し金七六二万〇五六八円およびこれに対する昭和四七年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2、第一審原告山木幸雄の第一審被告らに対するその余の請求を棄却する。

二、第一審原告山木儀一および第一審被告鈴木栄子の本件控訴をいずれも棄却する。

三、訴訟費用中、第一審原告山木幸雄と第一審被告らとの間に生じた分は、これを二分し、その一を第一審原告山木幸雄の、その余を第一審被告らの各負担とし、第一審原告山木儀一と第一審被告らとの間に生じた分は全部第一審原告山木儀一の負担とする。

四、この判決は第一項1号に限り仮に執行することができる。

事実

第一審原告ら代理人は第二〇四〇号事件につき、「原判決を次のとおり変更する。第一審被告らは各自第一審原告山木幸雄に対し金一五〇〇万円、同山木儀一に対し金三三万〇八五〇円およびこれらに対する昭和四七年一一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、第二〇八八号事件につき、「本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審被告鈴木栄子の負担とする。」との判決を求め、第一審被告ら代理人は第二〇四〇号事件につき、「本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第二〇八八号事件につき、「原判決中第一審被告鈴木栄子敗訴部分を取り消す。第一審原告山木幸雄の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告山木幸雄の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示と同一(ただし、原判決七枚目表六行目から八行目までを削る。)であるから、これを引用する。

一、第一審原告らの主張

第一審被告嘉幸の運行供用者責任について。同人が第一審被告ら夫婦の家計を維持していること、加害車は家族用に右家計で購入されたこと、加害車は第一審被告嘉幸の朝晩の送り迎えに利用されていたばかりでなく、同人も加害車を運転して利用していたこと、加害車を第一審被告栄子名義にしたのは特別の理由がある訳ではないこと等にてらせば、本件加害車の実質上の購入者ないし所有者は第一審被告嘉幸であり、同人に運行支配および運行利益があるというべきである。

二、第一審被告らの主張

1、第一審被告栄子の無過失について。同人は加害車を本件交差点の中心から対向車道へ四〇センチメートルはみ出した地点で待機していたことはない。仮に待機地点が四〇センチメートルはみ出していたとしても、本件交差点の東西道路は一車線であるので、交差点の直近の内側で待機するときは、後続車に邪魔となり、北側(対向車道)へはみ出して待機するしか方法がなかった。また、本件事故後国家公安委員会は本件交差点に右左折の方法の待機ゼブラ標示を設けたが、右ゼブラ標示によれば、本件交差点の中心より四〇ないし五〇センチメートル北側へ進入できる標示になっているので、第一審被告栄子が対向車道へ四〇センチメートルはみ出した待機地点で停車したことに過失はなかったというべきである。

2、過失相殺について、仮に右無過失とは云えず過失があるとしても、右のような交差点の状況から第一審被告栄子の過失は軽微であるから、その責任は三割以下に過失相殺されるべきである。

三、証拠関係《省略》

理由

一、事故の発生について

請求原因一の1ないし4(事故発生の日時、場所、加害車、同運転者、被害車、同運転者)の事実は、当事者間に争いがない。同5(事故の態様)は、後記認定のとおりである。

二、責任原因について

1  運行供用者責任

(一)  《証拠省略》を総合すれば次の事実が認められる。

(1) 第一審被告両名は夫婦で本件事故当時は学生の子供二名と同居中であり、第一審被告嘉幸は電々公社に勤め、同人の給料によって家計は維持され、同栄子はダスキン販売の内職で月に四〇〇〇円ないし六〇〇〇円程度の収入をえて家計を援助するに過ぎない。

(2) 第一審被告両名は、昭和三六年頃相次いで自動車運転免許を取得し、その頃第一審被告栄子所有名義で自動車が購入されたのを手初めにその後毎年のように同人名義で車の買替が継続され本件加害車は昭和四六年頃同人所有名義で購入された。(同人名義とされたことに格別の理由はなかった。)ところで本件加害車の購入代金(毎月八〇〇〇円ないし一万円、第一審被告嘉幸のボーナス受給時に八万円の割賦弁済の約定)毎月のガソリン代は約五〇〇〇円、その他維持管理費の殆んどは第一審被告嘉幸の給料から支払われ、第一審被告栄子が前記内職等による収入から支払われる部分は僅少の額に過ぎなかった。

(3) 本件加害車はファミリーカーとして入手したもので、平素は第一審被告栄子が前記内職、日常の買物等に使用することが比較的多いが、第一審被告嘉幸はもとより運転免許を有する長男もこれを運転使用し、一家のレジャーに利用され、さらに第一審被告栄子は加害車を自宅から最寄の地下鉄桃山台駅までの間朝夕第一審被告嘉幸の送迎用にも使用していた。

(4) 本件事故は、第一審被告栄子が加害車を運転して第一審被告嘉幸を桃山台駅に迎え同人を乗せて帰宅中に発生したものである。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(二)  右認定の第一審被告両名の身分関係なかんずく、第一審被告嘉幸が世帯主として一家の生計を維持していた点、本件加害車購入代金、維持管理費の負担関係、加害車の使用目的ならびに現実の使用状況等によれば、本件加害車の運行支配と運行利益は第一審被告嘉幸に帰属するものと認めるのが相当であり、したがって、第一審被告嘉幸は運行供用者としての責任がある。

2  一般不法行為責任

《証拠省略》を総合すると次の事実が認められる。

(一)  本件交差点の状況は、南北道路と東西道路がほぼ直角に交差する、信号機により交通整理の行われている交差点で、東西道路交差点西側車道部分北端の延長線が東西道路交差点東側車道部分のセンターラインとほぼ一致する程度に交差点を境にして東西道路にずれのある変形交差点であること、東西道路の車道部分にはセンターラインが敷かれており、東行車線の幅員は、交差点西側で三・二メートル、交差点東側で四・五メートル、西行車線の幅員は、交差点西側で四・〇メートル、交差点東側で四・五メートルであること、本件交差点付近道路の最高速度は時速四〇キロメートルに制限されていること

(二)  第一審被告栄子は、加害車を運転して東西道路を西進し、本件交差点に差し掛かり、これを東から北へ向かい右折すべく同交差点手前から右折の方向指示器を出して青信号に従い同交差点内に進入したが、対向車があったので交差点内で東西道路の東側中央線の延長線一杯の地点に車首をやや北に向けて停車し、対向車を通過させたこと、その後なお後続する対向車があったのに、第一審被告栄子は、東進して来て交差点にさしかかっていた被害車に気づかないで、対向車はないものと軽信して右中央線の延長線より約四〇センチメートル発進した直後、交差点内の対向車道(東行車線)上で本件事故が発生したこと

(三)  第一審原告幸雄は、被害車を運転して時速約六〇キロメートルで東西道路を東進し、本件交差点に差し掛かり、そのまま減速せずに青信号に従い同交差点を進行通過しようとしたが、同交差点内で発進直後の加害車をよけきれず、同交差点の中心よりやや東北寄りの地点(東西道路交差点東側車道部分北端の延長線より約四・一メートル南、交差点東側横断歩道西端より約五・三メートル西の地点、乙第一号証の二の×地点)で加害車の右前角部分に自車右側をかすめるようにして衝突させ、被害車は、更に東方やや北寄りに約二九・二メートル暴走して交差点東北側歩道上に駐車していた車両の右後部に衝突して停止したこと

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

ところで、第一審被告栄子は、前認定のとおり、本件交差点を東から北へ右折すべく同交差点内に進入し、停車して対向車の通過を待っていたものであるが、前認定のとおり同交差点が東西道路にずれのある変形交差点であるから、東西道路を東進し本件交差点を進行通過しようとする車両の有無を十分確認してから発進すべき注意義務があるのに、右注意義務を怠ったことが明らかである。

してみると、第一審被告栄子は、その過失によって本件事故を発生させたものというべく、民法七〇九条により本件事故による第一審原告らの損害を賠償すべき責任がある。

三、損害について

当裁判所も第一審原告幸雄の被った損害は、治療関係費三九万〇八三〇円、逸失利益一五八一万九六九六円、慰藉料三二〇万円、合計一九四一万〇五二六円であり、第一審原告儀一の被った損害は、これを算定するに足りる証拠がないと判断するが、その理由は原判決理由三1、2記載(原判決一〇枚目裏二行目から同一五枚目裏七行目まで)の判断説示と同一であるから、これを引用する。

四、過失相殺について

前記二2認定の事実によれば、本件事故の発生について、第一審原告幸雄にも変形交差点を直進する場合、制限速度を遵守すべきであるのに毎時約二〇キロメートル超過し、かつ前方注視を怠ったかあるいは適切なハンドル操作を行わなかったかの過失が存し、左側に十分な余裕があったにもかかわらず自車を加害車に衝突させる結果となったものであるから、前認定の第一審被告栄子の過失内容等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として第一審原告幸雄の損害の五割を減ずるのが相当である。そうすると第一審原告幸雄に対し賠償すべき損害額は九七〇万五二六三円となる。

五、損害の填補について

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。

よって、第一審原告幸雄に賠償すべき前記損害額から右填補分二五八万四六九五円を差し引くと、残損害額は七一二万〇五六八円となる。

六、弁護士費用について

本件事案の内容、審理経過、認容額等にてらすと、第一審原告幸雄が第一審被告ら各自に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は五〇万円とするのが相当である。

七、結論

よって、第一審被告らは各自第一審原告幸雄に対し七六二万〇五六八円およびこれに対する本件不法行為による損害発生の日の翌日である昭和四七年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、第一審原告幸雄の第一審被告両名に対する本訴請求は右限度で正当であるから、これを認容し、その余の請求ならびに第一審原告儀一の第一審被告両名に対する本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。

八、以上の次第で、第一審原告幸雄の第一審被告らに対する本件控訴は一部理由があるので、原判決中第一審原告幸雄の第一審被告らに対する関係部分を主文第一項記載のとおり変更し、第一審原告儀一ならびに第一審被告栄子の本件控訴をいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤平伍 裁判官 仲西二郎 惣脇春雄)

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